『星の王子さま』は1953年に日本で初めて内藤 濯さん(ないとう あろう)によって翻訳されました。現在は沢山の翻訳家の方が、『星の王子さま』を訳していますが、正直どれを選んだらいいのか分からない方もいると思います。
今回はAmazonで多くの評価が付いている翻訳家、内藤濯さん、河野万里子さん、浅岡 夢二さんの3人が翻訳した『星の王子さま』を読みくらべました。(Kindle版のみ)
読んでみた結果は、河野万里子さんの翻訳した『星の王子さま』が、私としては総合的に良いと感じました。それがなぜなのかも含め、最後まで読んで頂けたら嬉しいです!
大切なものを思い出したい人
大切な人が居る人
人を信じるのが怖い人
目に見える物しか見ていない人
ほっこりしたい人
疲れている人
翻訳者
- 内藤 濯(ないとう あろう)Amazonのレビュー数1005(★4.4)
- 河野 万里子(こうの まりこ)Amazonのレビュー数1950(★4.5)
- 浅岡 夢二(あさおか ゆめじ)Amazonのレビュー数4062(★4.3)
※私は全てkindle版で読んでいます。河野万里子さんの文庫版をAmazonで調べたら倉橋由美子さんという翻訳家さんが紐づけされていました。レビュー数1950の中に倉橋由美子さんのレビューも入っているかも知れませんが、私は河野万里子さんの訳を読んでいます。ご了承お願い致します!
↑内藤 濯訳(ハードカバー、文庫本もあります)
↑河野 万里子訳(kindle)
↑浅岡 夢二訳
本の要約
『たいせつなことは目には見えない』
この本は、忘れていた大切なものを思い出させてくれます。
忙しい毎日の中で、知らずのうちにみんな大人になってしまいます。そのせいでなくしていた、純粋な心を取り戻し、いつの間にか心に空いてしまっていた穴を、埋めてくれる。そんな物語です。
飛行機不具合でサハラ砂漠に不時着した「ぼく」と、ぼくの目の前に突然現れた小さな男の子。
その男の子(王子さま)は自分が住んでいた小さな星を出て、色々な星を旅した末に、地球に辿り着きました。
色々な星を巡る中で、王子さまは色々な大人に会います。
王様、うぬぼれ男、酔っ払い、実業家、点灯夫、地理学者の、それぞれ違う性質を持った大人に出会いますが、これは現代社会や大人たちへの風刺となっていて、耳が痛い人も居るかもしれません。
王子さまは、その大人に会うたびに「へんなの」と思っています。
王様→傲慢でいばりちらかしている
うぬぼれ屋→承認欲求を満たすのに精いっぱい
酔っ払い→同じことの繰り返しで、どうどう巡り
実業家→数字に囚われていてお金の事ばかり
点灯夫→人の為に働いていて一番まともだけど、ルールに縛られている
地理学者→物事の本質が見えていない
そこから地球に辿り着き、キツネと出会い「飼いならす」=「仲良くなる」ということがどういうことなのかを知ります。
仲良くなる(飼いならす)と、今までは他の10万のキツネと同じだったキツネが、宇宙に一つしかない大切な存在になります。
王子さまは、自分の星に置いて来てしまった、喧嘩別れをした「バラ」を思い出して、いてもたってもいられなくなります。
キツネとお別れをして、「バラ」の元に(自分の星に)帰ろうとする王子さまですが、次は砂漠に不時着した人間の「ぼく」と出会い、お互いが「飼いならされて」いきます。
王子さまと一緒に居た数日間で、大人になってしまった「ぼく」は、『たいせつなことは目には見えない』ということに気が付きます。
翻訳家、それぞれの違い
話の内容は一緒ですが、表現の仕方がそれぞれです。全部は書き出しませんが、私が気になった部分を紹介します。
内藤 濯さんの翻訳で初めて「星の王子さま」が日本で出版されました。1953年なので、今よりもかなり古い言い回しが多いです。私は1975年生まれなのですが、子供の頃の四コマ漫画を思い出すような昔の言葉で書かれています。言い回しも、今では使わないような古いものが多く「THE昭和」な感じが、懐かしさを感じさせます。今でいう「エモい」ってやつですね!今の子供や若い世代には、難しいかもしれませんが、昔の言葉を知る機会になると思います。こうやって少しずつ、日本語も変わっていくんだな~と感慨深いです。
↑内藤 濯訳(ハードカバー、文庫本もあります)
河野 万里子さんと、浅岡 夢二さんは現代の言葉で書かれています。何が違うのかと言うと、河野 万里子さんは縦書きで、浅岡 夢二さんは横書きになります。文章の言い回し的には、河野 万里子さんは表現がハッキリしていて分かりやすいです。浅岡 夢二さんは多少言い回しがわかりずらい部分もありました。
↑河野 万里子訳(kindle)
それと、私の主観にはなりますが、『星の王子さま』はあの著者のサン=テグジュペリが描いた挿絵が絶対に必要だと思います。それがあるのは河野 万里子さんの方で(内藤 濯さんもある)、浅岡 夢二さんの挿絵は葉 祥明(よう しょうめい)さんの挿絵になっています。葉祥 明さんの挿絵も素敵ですが、やはりサン=テグジュペリが描いたあの挿絵があるから、物語に深みがでるのでるんじゃないかなと、思います。
↑浅岡 夢二訳
王子さまの「バラ」は、本書では大切な役割を果たしていますが、その「バラ」のイメージもだいぶ違います。
内藤 濯さんのバラ→上品で貴族のような話し方
河野 万里子さんのバラ→ツンデレの彼女
浅岡 夢二さんのバラ→メンヘラの彼女
また、河野 万里子さんの「訳者あとがき」では、著者のサン=テグジュペリの生まれや、人生のエピソードなどが詳しく書かれていて、それだけでも読む価値があり、どうやって「星の王子さま」が書かれたのか?なども分かります。
ただ、私はkindleで読んだので実物を手にしていないのですが、浅岡 夢二さんの『星の王子さま』は字が大きく読みやすくなっているようです。(レビューを参考にしました)お値段も高めなので、もしかしたらkindleでは味わえない素晴らしさがあるのかも知れません。表紙の帯に、「スピリチュアルな新訳」となっていましたが、この『星の王子さま』自体がスピリチュアルな要素が強いので、誰が訳しても「スピリチュアル」なんじゃないかな?とは思います。ですが、リズ・ブルボーさんの翻訳をされている方なので、スピリチュアルにも造詣があり、著者の意図を汲めるという点では、適任なのかもしれません。
お勧めの翻訳家さん、まとめ
私がお勧めする翻訳家さんは、この『星の王子さま』を分かりやすく解釈するという意味で、河野 万里子さんです。
表現がハッキリしていて解釈しやすい
挿絵が著者、サン=テグジュペリのもの
訳者あとがきも内容が深い
ただし、kindleでしかないのでご注意ください。文庫本である倉橋由美子さん訳のものも読んだら随時書き足したいと思います。
手元に紙として持ちたい方は、書店で実際みてみるのも良いと思います。
初めて読む若い方は、まずは分かりやすい河野 万里子さん、浅岡 夢二さん訳のものを読んで、後から内藤 濯さん訳のものを読んでも面白いかと思います。
ちなみに、内藤 濯さん訳と浅岡 夢二さん訳の『星の王子さま』は、kindle unlimitedに入っていれば無料で読めます。(2022/12/29現在)
本の感想
私は、この本を読んでさっそく、ipadのロック画面を『星の王子さま』にしました☆そして、箱根で働いていた時期があるのに、星の王子さまミュージアムに行かなかった事を公開しています。あの時に読んでおけば良かった。。。
小学生のころ、母親の本棚にあった『星の王子さま』。CMなどでも起用されていてどんな本なのかと読んでみましたが、まったく意味が分かりませんでした(笑)せっかく読んだのに内容を一つも覚えていないという始末です。
今回、内藤 濯さん訳と浅岡 夢二さん訳の『星の王子さま』がkindle unlimitedで無料だったので、この機会にほとんど初めての状況で読みました。
3冊読んでより深く理解できた感じがあります。おそらく私は、斜め読みしがちなんだと思います。
私は仲良くなったり、絆を深めることを「飼いならす」と表現している、内藤さんと浅岡さんの訳が好きです。(河野さんは「なつく」です。)初めは「飼いならす」ってちょっと違うんじゃないか?って思いましたが、読んでいくうちにその「飼いならす」の言葉の裏にある情緒あふれる感覚に完全に酔わされました(笑)。なんかちょっとエロいとも思います。
キツネは王子さまに「飼いならしておくれよ」と言いますが、最終的には王子さまもキツネの事が大好きになっています。「飼いならしている」つもりが「自分も飼いならされていた」と言うところが、人対人でも、人対動物でもあると思います。自分にも当てはめると、これが「飼いならされている」ってことなんだな~と、思います。
「ぼく」との会話の中で王子さまは『砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだね』と言います。また、「きみが星空を見上げると、そのどれかひとつにぼくが住んでるから(以下略)」とも言います。このくだりを読んだ時に思い出したのは、ラピュタの主題歌の「君を乗せて」です。
『あの地平線 輝くのは どこかに君を 隠しているから たくさんの灯が 懐かしいのは あのどれか一つに 君がいるから』
これって、完全に『星の王子さま』からインスパイアされていたんだ!ということに、今さらながら気づいてワクワクしました(笑)調べてみたら、宮崎駿監督は著者のファンだったようですね。
『星の王子さま』では素敵な言葉や考え方が沢山あり、ファンタジーの世界に没入することが出来ます。色々な翻訳家さんが訳しているので、自分に合った訳のものを探し出すのに、このブログが役に立てば嬉しいです。
著者(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ)
[1900.6.29 – 1944.7.31]
1900年フランスのリヨンで貴族の家に生まれた。若いころから空を飛ぶことに情熱を持ちつづけ、兵役で空軍に入隊、のちに民間のパイロットとして活躍する。飛行士の体験にもとづいて、『夜間飛行』や『人間の大地』等を著し、作家としても成功をおさめた。戦争を避けてアメリカに亡命し、1943年、さし絵も自分で描いた『星の王子さま』を出版する。同年、フランス軍に復帰。翌44年コルシカ島沖合で行方不明となる。
翻訳家
内藤 濯(ないとう あろう)
1883-1977
フランス文学者。熊本市生まれ。中学は北原白秋と同級生だった。東京大学フランス文学科を卒業。ブールジェ『弟子』、モーロワ『私の生活技術』、ラ・ロシェフコー『箴言と考察』などの翻訳のほか、著書として『星の王子とわたし』『ルナアルの言葉』『落穂拾いの記』などがある。
河野 万里子
1959年生れ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。上智大学外国語学部非常勤講師。英語、フランス語の翻訳を手がける。訳書にサガン『悲しみよこんにちは』『打ちのめされた心は』、セプルベダ『カモメに飛ぶことを教えた猫』、2021年本屋大賞翻訳小説部門第2位を受賞した『神さまの貨物』など多数。
浅岡 夢二
1952年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学科卒業。明治大学大学院博士課程を経て中央大学法学部准教授。専門は、フランスおよびカナダ(ケベック州)の文学と思想。現在、人間の本質(=エネルギー論)を構築中。フランス語圏におけるスピリチュアリズム関係の文献や、各種セラピー・精神世界・自己啓発関連の文献を、精力的に翻訳・紹介している。訳書に『幸せの扉を開く 許すための81レッスン』(ゴマブックス)その他、多数。